Crimson Report

スポンサーサイト

Fri 18 11, 2005

Permalink : http://sug.jugem.cc/?eid=

一定期間更新がないため広告を表示しています

| posted at | filed under - | - | - |

Latest entry


渚にて

Tue 08 04, 2003

Permalink : http://sug.jugem.cc/?eid=205

渚は凪いでいた。

私はステッキに両手をかさねて、目を細めながら夜の海をしばらく眺めた。大潮で海面は高く、細波のひとつひとつが月光を反射している。ふたたび歩き出すと満月もゆっくりと後をついてきた。蒼白の光が私と愛犬の影をアスファルトに揺らしている。ステッキの音がコツリコツリと響く。長年連れそってきた私の足はかなり弱ってきていた。きっと時代の流れとともに進むことに疲れてしまったのかもしれない。ヒューイは私の足を知ってか知らずか、歩調をあわせ私の前をとぼとぼと歩く。それとも彼が私に劣らない老犬だからだろうか?仕事を後進の者にまかせ、海を眺めて暮らすようになって久しい。私にとって大切なものは、海と、深夜のヒューイとの散歩、それに思い出だけだ。

もう何年も前のこと。眠っているような生活に嫌気がさし、すべてを捨て故郷を飛び出したのもこんな満月の晩だった。外の世界には何があるのか、自分には何ができるのか、その可能性が知りたかった。初めて見る都会の圧倒的な広さ、高さ。ひしめき合う人々とその街並み。ひとつひとつの窓の明かりの中にはそれぞれの団欒と競争がある。そんな都会で、ハンデキャップのあった私は懸命に働き、また人生を楽しんだ。ささやかながら成功もしたが、それももう過去の話だ。

波音は重く静かだが絶え間なく続いていた。道路わきに海岸へ下りてゆく石段がある。私とヒューイは足もとを確かめるように、砂だらけの階段を踏みしめて下りた。潮の香りが風に乗って顔をなでる。月明かりに照らされたシーズンオフの砂浜は、人の足跡もなく風紋だけが自然の絵筆で描かれている。私はその作品を壊さないように、なるべく足を引きずらないように海に向かった。

ふと、ヒューイが顔を上げた。しばらく風に鼻先を動かしていたが、やがて振り向くと尋ねるような視線を私によこした。そちらを見ると海辺に人がいる。遠目にはわからないが小柄な女性のようだ。白いドレスを身につけ長い黒髪が風にそよいでいる。人影は海に向かって、じっと座り込んでいるようだった。

(観光客だろうか?)

後ろを振りかえり、道路を挟んで建つシーサイドホテルを見上げた。ほとんどの窓は灯りが落ち、建物のシルエットが星空を黒く切り取っている。

少し考えたが彼女の方に歩いていった。ヒューイはそれを”許可”と受取ったのか、普段見せない脚力で砂を蹴って走ってゆく。すぐに彼女に近づくと肩のあたりに鼻をつけ、また私の方を見た。彼女は足を抱えるように座り、ひざに顔を伏せていた。細い腕はまだ少女のものだった。眠っているのか、ヒューイが近づいても動かない。髪もドレスも濡れたように月の光を映していた。白く見えたドレスは、よく見ると銀色の細かい装飾がされ、まるで肌にすいついているようにぴったりとしていた。4月とはいえ夜はまだ冷え込む。肩も広くあいた背中も、とても寒そうだった。

私は短く口笛を吹いてヒューイに”戻れ”の合図を送った。その音に彼女はハッと顔を上げ振り向いた。私は右手で帽子を少し上げて、会釈とも謝罪ともとれないしぐさをした。すると彼女の丸く見開いた瞳は、やがて笑みに変わり、風に乱れた髪を後ろ手でまとめ右肩にまわすと、まっすぐにこちらを向いた。満月が蒼く明るく彼女を照らす。一瞬波音が途絶え、軽い眩暈がした。

ブラウンがかった瞳にバラの花のような小さな唇。なによりその髪をさわるしぐさ。私はこの少女を知っている。遥か昔から知っている。私は立ち尽くし、彼女はひざを抱え座ったまま見上げていた。どうしても視線がはずせなかった。黒くうねる波と満月をバックに私を見つめる少女。この時、私はすべてを理解した。彼女の唇がかすかに開き何かを伝えようとする。私は人差し指を自分の唇にあてると、それをゆっくりと左右に振り手を差しのべた。彼女はうなずくと同じように右手をあげ、私の指先をそっとつかんだ。

今の私たちに声はない。人間になるために人魚はふたつのものを失う。声と永遠の命、不老不死の力を。もともと、人魚は互いの手や体を触れ合うことで意思や感情を伝えることができる。海の底では、あまり声など必要ではない。しかし、不老不死は違う。私は人間になって老いたが、彼女は私の思い出の中の、あの日のままの姿でここにいる。満月の夜に一度だけ有効な魔法をかけて、私が海の故郷とともに捨ててきた恋人。それがこの少女なのだ。

彼女の冷たい指先から思いが流れ込んでくる。

(逢いたかったわ。ずっと・・・。あんまり逢いたいんで人間になっちゃった。)
(君を残していった私を許すのか?それに私は老いた。)
(海の底じゃ、待ったのなんて一瞬よ。その白い髪だってステキだわ。)

私は彼女を抱きしめ、言葉にできない思いを感謝をあるだけの愛を体で伝えた。

いつしか夜は明けはじめていた。金色に輝く水面の反射が、彼女のシルエットにライスシャワーのように降りそそいでいる。

(一緒に暮らそう。)
そう伝えると私は立ち上がって彼女の手をとった。

(彼も一緒ね?)

眠ってしまったヒューイに向かって、彼女は短く口笛を吹いた。ヒューイは大きくのびをしてとぼとぼと向かってくる。

にっこりと微笑みながら、つないだ手から彼女が言う。
(私ね、歩くの今日が初めてなの。)

二人と一匹は朝焼けの波打ちぎわを、ひときわゆっくりと歩いていった。

| posted at 19:04 | filed under Fiction | comments(4) | trackbacks(4) |


呪いの電話

Mon 31 03, 2003

Permalink : http://sug.jugem.cc/?eid=199

TEL

真・都市伝説101夜のリカちゃん電話という話をご存知だろうか?霊あるいは怪異が電話を通じてコンタクトをとってくることは、現代でははめずらしいことではない。また、見ると7日後に死ぬと噂されるビデオの恐怖が書かれた「リング」の小説にもそれに関する部分がある。こちらは呪いのビデオを見たことを確認する無言電話が霊よりかかってくる。このように怪にまつわる小道具は時代とともに移り変わってゆくのである。


それは夏の夜の出来事だった。窓を開けていても生温かい風が入ってくるだけで、首筋から背中に流れる汗を不快に感じながら、私はいつものようにPCに向かい仕事をしていた。一定のリズムでキーを打つ音と、冷却ファンが羽虫を思わせる低い響きをたてている。

( 静かだな・・・ )

普段なら、すぐそばの国道から人や車の往来の喧騒が聞こえてくるのだが、今夜はこの世に私ひとりだけが取り残されてしまったかのように、街は黒く静かにうずくまっていた。すでに時計は0時をまわっている。

( 明日にまわしてビールでも飲むか・・・ )

私は暑さに嫌気がさし、仕事を切り上げようとPCの電源に手をのばした。と、ちょうどその時にテーブルの上に置いてある携帯電話が震えだした。マナーモードに設定されていると、まずは無音でバイブレーターが作動し数十秒間応答しないでいると呼び出し音に切り替わる仕組みだ。テーブルの上を、今まさに命が吹き込まれたかのように振動しながらにじり寄ってくる電話を見つめた。

( こんな夜更けに誰だろう? )

何人かの顔が浮かんだが、深夜に電話をしてくるような連中ではない。それとも何か緊急を要する連絡だろうか?ほどなくバイブレーションは止まり着信メロディに切り替わった。聴いたことのあるイントロ・・・沢田知可子の「逢いたい」だった。死んでしまった恋人への切ないラブソングだ。

( こんな着メロ入れたっけかな? )

なぜか、この電話に出てはいけない というような危険信号が背筋を走る。部屋の中は蒸して暑いはずなのに、額を流れてゆく汗は冷たいものだった。私はゆっくりと携帯電話に手を伸ばし、ディスプレイを見た。公衆とだけ表示されている。私は自分の不吉な妄想を振りはらうと、通話ボタンを押した。

「 もしもし 」
・・・・・・

無言だが何者かが息をひそめているのがわかる。何かがこすれるようなノイズがかすかに聞こえる。

「 もしもし? 」
・・・・・・を返して・・・

低く消え入りそうな女の声だった。急いで記憶をたぐるが、初めて聞く声だ。

「 えっ、なんですか?どなた? 」
・・・返して・・・これから あなたの所へ 行くわ・・・

手に汗がにじみ小刻みにふるえている。いつの間にか電話をきつく握り締めていた。まさに先日読んだ都市伝説と同じ展開じゃないか。まさかこんなことが自分の身に降りかかろうとは。やはり、呪いの電話はあったのだ。

ああ、こんなケータイ拾うんじゃなかったー!?

「え?この電話の持ち主の方?そうですか。いえいえ、どういたしまして。
そんな・・・ いや、霊にはおよびませんよ。 」

| posted at 18:34 | filed under Fiction | comments(0) | trackbacks(1) |


Fri 21 03, 2003

Permalink : http://sug.jugem.cc/?eid=198

あなたもこの木が好きですか。ねぇ。この公園に何本桜があるのか数えたことはないですけど、これほど見事な枝っぷりなのはないですよね。子供の頃は今の半分くらいの高さだったんじゃないかな。ボクですか?ええ、ずっと近くに住んでいるんで毎年見に来ますよ。ひとりでかって?ははは、去年は恋人とお弁当持って見に来ましたよ。その後ケンカ別れしちゃったんで今日はひとりです。あなたは?そうですかお仕事中?測量?この公園なくなっちゃうんですか。それは残念。

小学校にあがる前に金魚飼ってたんですよ。紅いのと黒いのの2匹。ボクが世話の係りだったんですけどね。そこはほら子供のこと、面白がって餌をあげすぎて死んじゃったんですよ。ああ、あなたも似たような経験がありますか。悲しかったなぁ、あの時は。それでね父と一緒にね、お墓をつくったんです。桜の木の根元に。夏休みの宿題にね、写生がありましてね。ほらそこの後ろのベンチ。あそこからこっちの桜並木を描いたんです。その右上に、ふたまたになった枝があるでしょ?そうそう、その太いヤツ。今はちょっとわかりにくいけど、花が落ちて青葉と枝だけになるとね、2匹の金魚の形に見えるんですよ。ええ、絵を描いてて気付きました。その時に、そうだ金魚を埋めたのはこの木だった!って思い出したんですよ。えっ?気のせい?そうかもしれませんねぇ。

じゃ、反対側のあの枝はどうです?曲がり方が柴犬のしっぽみたいに見えませんか?ポチが老衰で死んだのは5年前。そうです。この木のそばに埋めました。え?そういうのはいけないこと?ああ、公園の関係者なんでしたね。済みません。でもやっぱりポチに見えるんだけどなぁ、あの枝。ああもう昼休みは終わりですか?はぁ、更地にしてマンションができるんですか。そうかこの木も抜かれちゃうのか。もう見納めですか、寂しくなるな。ほら正面の、その花の色の薄いところ。女の顔に見えませんか?そうそう、ちょっとうつむいた感じで。あぁ、やっとわかってくれましたか。これが恋人の写真です。どうです、そっくりでしょ。あの時ちょっとしたことでケンカになって。ボクもカッときてしまってね。これからはケンカなんかしないで、毎年ここで会えると思っていたのに。

桜

えっ?みんなのところに戻る?いや、ここまで聞いたらそれはできませんよ。でも残念ですね。あなたの顔がこの木にあらわれることはないのですね。今年限りの桜ですもんね。

| posted at 18:26 | filed under Fiction | comments(0) | trackbacks(0) |


帰郷

Fri 28 02, 2003

Permalink : http://sug.jugem.cc/?eid=200

婆

そう、たしかに私は疲れていた。

深夜の高速の上り車線をまばらに走行している車は、そのほとんどが闇に溶け、光る目は深海魚を思わせる。
「母さんの具合が悪いから、おまえ、代わりにばあちゃんの法事に行ってくれないか」
と、父に言われたのが昨夜の土曜日のこと。最近疲れ気味だったので日曜日は一日寝ていようと思っていたが、断る理由がなかった。

身内だけの堅苦しくない集まりとはいえ、六年前にばあちゃんが亡くなってから田舎には一度も顔を出していなかった。永遠に続くのかと思われる読経をぼんやりと聞きながら、久しぶりにばあちゃんの顔を見る。遺影の顔は、かすかに笑っている。「ばあちゃんは、私が子供の頃から、ばあちゃんだったな・・・」

田舎が遠かったせいか、ばあちゃんの家を訪れるのは冬休みの正月か夏休みくらいのことだった。その度に、家の庭でついた餅や、畑で取れたトマトや西瓜で歓待してくれた。西瓜は井戸で冷やしてあってその一抱えもある縞模様の玉を、ばあちゃんはいっそう腰を曲げて土間へと運んでいたのを思い出す。

法事の後には小さな宴があった。いつ改築されたのか、土間や井戸は近代的なダイニングキッチンに変わっていた。
「・・・君もこっちに来て、まあ一杯呑みなさい」
「早く身を固めないと、ばあちゃんも安心できんよ」
ほとんど会ったことのない親戚に適当に相槌を打ちながら、末席の私は徐々に気が重くなってゆくのを感じていた。明日の仕事を理由に、そうそうに引き上げることにしよう。

翌日。どうにも体が重く休暇願いを出した。午前中は、それでもベットの中でうつらうつらしていたが、やはり間が持たない。「・・・ちょっと大げさすぎたかな」と起きだして着替えると、ひげも剃らずに外へ出た。明るい春の日差しだが風は冷たい。近くの公園までゆっくりと歩き、池の前の定位置のベンチに腰掛け、煙草を取り出す。煙は池の方に流され、霧散し、残りの風が水面に細かな波をつくる。

後ろから犬の鳴き声と小走りの足音が聞こえた。振り向くと、ビーグル犬に引っ張られながら少年が声をかけてきた。
「おじさん!こんにちは」
私は煙草を持ったほうの手を肩の辺りまで上げてこたえた。ここで何度か会ったことのある少年と犬だった。人懐こい犬だったはずだが、今日はやけに吠える。少年も驚いたような目をして少し離れて立ち止まり、指が白くなるほどリードをしっかりと握りしめていた。彼は小さな声で言った。

「おじさん、どうしておばあちゃんをおんぶしてるの?」

私は池に近寄り、水面を覗きこむようにした。風が止み、さざなみが消えてゆく。

そう、たしかに私は憑かれていた。

このように卓越した演技力をもって、よく大人を怖がらせたものである。すべては過去の話である。

| posted at 18:45 | filed under Fiction | comments(0) | trackbacks(0) |


揺れる思い

Mon 17 02, 2003

Permalink : http://sug.jugem.cc/?eid=201

くうちゅうぶらんこ

今日は私の子供の頃の話をしよう。

×月×日 ボクの住む町にサーカスがやって来ました。

大きなトラックの荷台に木で造られた箱のようなものがのっており、その壁には色とりどりの星と、赤く光る玉の上で逆立ちしたピエロや、火の輪を飛び越えようとする猛獣や、白いピッタリとしたドレスを着た青い目の少女の絵が描かれてありました。車の屋根からは、アコーディオンとクラリネットの異国調の音楽が流れていて、ボクたちは初めての体験と期待に胸をふるわせたのでした。

さして広くもない町の中央通りを、ピンクや黄色や薄空色のチラシを窓から撒きながらトラックの一団はゆっくりと走っていきます。ボクや他の子供たちは先を争うように、何枚も何枚もチラシを拾いながら追いかけてゆきました。

夕刻、みんなで町外れの空き地に行くと、学校の講堂ほどもある大きなテントが造られていました。シートにはトラックの壁と同じ絵が描かれてあります。ボクたちは、お小遣いをはたいて綺麗なティケットを買うと、もぎりのおじさんに渡すのでした。

「世紀のショウへ、ようこそ」団長が優雅な物腰でシルクハットをクルリとまわし、サーカスは幕を開けました。ライオンの口の中に頭を入れる芸や、ゾウのダンス。どれも初めて見る感動に、ボクたちは手が痛くなるほど拍手しました。一輪車に乗りながらお手玉するピエロが、転んでもお手玉し続けたのは面白かったです。

やがて、場内が暗めになり重々しくドラムロールが響きました。絵そのままの青い目の少女が中央に登場し、ヒザをちょっとまげて挨拶しました。空中ブランコの始まりです。首を真上に向けるほど高い所で、彼女はブランコをこぎます。彼女に合わせてスポットライトの光の筋も揺れています。最初は近いところで飛び移っていたのですが、だんだんふたつのブランコの振幅がずれてきました。それに捕まえる方の男の人は目隠しをしています。

彼女はグングンスピードを上げていきました。観客も首を左右に揺らしながら目を離すまいとしています。少女の手がバーを離れました。「とても届きそうにないよ!」ボクはギュッと唇をかみしめました。小さな体をさらに小さく丸め、クルクルと回転しながら彼女の体は空を飛びます。もうひとつのブランコが近づいて来る。あと30センチ!ギリギリのところで二人は手をつなぎました。片手どうしです。ボクは知らぬ間に止めていた息を大きくはきだしました。彼女は何事もなかったかのように、空いている方の手を振り、投げキッスをするのでした。

とても素敵なショウでした。ボクも公園のブランコで練習して、大人になったら空中ブランコ乗りになりたいです。

純朴な少年時代ではないか。どうしてこんな大人になってしまったのだろう。しかし、あまりにも突飛だ。空中ブランコ乗りとは。ある意味、地に足がついていないという現状は、夢も半ば叶ったということだろう。

すべては過去の話である。公園のブランコで猛練習をして、振動の名を欲しいままにしていた頃の。

| posted at 18:48 | filed under Fiction | comments(0) | trackbacks(2) |


Search this site

about this site

Categories

Archives

Appddix